大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成元年(行ツ)61号 判決 1989年7月13日

青森市新町一丁目九番二六号

上告人

有限会社武田開発商社

右代表者代表取締役

武田政治

右訴訟代理人弁護士

尾崎陞

清宮國義

青森市本町一丁目六番五号

被上告人

青森税務署長

大場輝夫

右当事者間の仙台高等裁判所昭和六一年(行コ)第一一号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成元年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人尾崎陞の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認するに足り、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ッ谷巌)

(平成元年(行ツ)第六一号 上告人 有限会社武田開発商社)

上告代理人尾崎陞の上告理由

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令違背、理由不備があるので破棄を免れない。

一 原判決が引用した第一審判決は、本件利益及び和解金の益金性について次のように判示している。

(一) 法人税法は、各事業年度の所得を法人税の課税対象とし(五条)、右所得は、「当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする」と定めたうえ(二二条一項)、当該益金の額に算入すべき金額として、「別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」旨規定している(二二条二項)。

また、右「別段の定め」のうち益金に算入されないものは、受取配当等(二三条)、資産の評価益(二五条)、還付金等(二六条)、合併差益金のうち被合併法人の利益積立金額から成る部分(二七条)であり、「資本等取引」とは、法人の資本等の金額の増加又は減少を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配をいうとされている(二二条五項)。

(二) 本件利息及び和解金は、本件返還金と異なり、原告の出捐によらない収益であり、前記益金不算入の特別の定め及び資本等取引にも該当しないので、法人税法二二条二項の「その他の取引」に該当し、課税対象たる所得算出の基礎たる益金に算入されることになる。

(三) 原告は、本件利息は本件返還金に当然付加される法定利息であるから、原告の売買代金の出捐によるものであり、原告の支払った売買代金(損失)に対する補填というべきものであるから、純資産の増加とならず、法人税法二二条二項に規定する「その他の取引による収益」とはならないと、また、本件和解金は本件返還金に対する法定利息のうち国の滞納処分の対象となっていなかった昭和五一年三月三一日までの分六、六四六万六、六一八円について、和解交渉の結果合意された金員であるから、名目は和解金になっているが和解によって発生したものではなく、本件返還金に付加された法定利息の一部としての性格を有し、法人税法二二条二項を適用する余地はないと主張する。

しかしながら、本件返還金が、昭和四九年八月二八日の解除により原告に支払われることになった不当利得返還金であって原告の売買代金の支払いに起因しているとしても、原告の出捐によるものはその額のみであり、本件利息及び和解金については、その額だけ純資産が増加しているのであるから、それらの性質が法定利息であるか否かに関りなく益金に算入されるべきものと解するのが相当である。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(四) また、原告は、本件利息については国による滞納処分を受け、原告は支払いを受けていないのであるから原告の収益とはならないと、また、本件和解金についても、青森県によって滞納処分がなされたのであるから原告の収益とはならないと主張する。

しかしながら、国及び青森県によって中野から取立てられた本件利息及び和解金は、原告の滞納税額に充当され、租税債務は右充当額の限度で消滅したのであるから、原告の純資産はその分だけ増加したといえるのであって、原告が本件利息及び和解金について潜在債権者たるか否かに関りなく、そこに収益が発生して原告に帰属したことになる。

したがって、原告の右主張も失当である。

二 しかし、本件返還金及び利息は、共に中野が本件不当利得により、上告人に返還することを要する金員であり、上告人は本件不当利得によって被った損失を回復するに過ぎず(民法第七〇三条、第七〇四条参照)、上告人の資産は、これによって何ら増加していないのであり、返還金とその利息とは、その性格が異なるものではない。

また、国及び青森県が取り立てた金員が、上告人の滞納税額に充当され、上告人の租税債務が充当額の限度で消滅したとしても、そのことをもって直ちに上告人の純資産が増加したとはいえない。租税債務の消滅は、消滅の原因たる納税金が収益となるかどうかとは何ら関係がないのである。

前記判示は、法人税法第二二条第二項の解釈適用を誤ったものである。

(一) 本件利息は、上告人が訴外中野英喜(以下中野という)との間で昭和四八年一月五日青森県上北郡横浜町地内の土地を五億九、一〇万円で買受ける旨の契約として手付金として同日五、〇六〇万円、内金として同年一月二五日一、〇〇〇万円、同年三月一五日三億円を支払った合計三億六、〇六〇万円を中野の債務不履行により、原告が昭和四九年八月二八日契約解除をなした結果、中野から上告人に不当利得として返還することになった右三億六、〇六〇万円及びこれにたいする昭和五一年四月一日からの年六分の割合による利息について、上告人、中野及び国との間で仙台高等裁判所で成立した和解にもとづいて、中野から国に支払われた法定利息である。

したがって、右利息は、本件返還金と同じく、不当利得の結果として生じたもので、本件和解によって生じたものでなく、本件和解はこのことを確認したに過ぎない。したがって、本件利息は返還金と同一の性格を有するものといわねばならない。(甲第一、二号証参照)。すなわち、本件利息は新たな価値の増殖行為があったわけではないので、法人税第二二条第二項に規定する「その他の取引による収益」とはならないのである。

(二) 原審証人鍛治利秀および尾崎陞の各証言によれば、本件和解金は、実質的には国との和解条項から除かれている代金受領の日から契約解除の日の前日までの利息三、一六四万三、〇七三円の一部であることが認められるのでその性格は、右(一)で述べた本件利息と同一であるといわねばならない(上告人の原審に提出した昭和六三年一〇月四日準備書面第一項参照)。したがって、原審判決が、これに法人税法第二二条第二項を適用したのは法令違背である。

三 次に原判決が引用した第一審判決は、本件利息及び和解金の帰属事業年度について次のとおり判示した。

『(一) 税法上所得金額の算定にあたっての帰属事業年度の決定は益金となるべき事実関係が単に生じたというにとどまらず、一定の経済的利益の変動が金額、安定性等の面で課税適状にあるとみられる程度に「確定」した段階に至った時期によるべきものと解すべきである。

(二) そこで、本件利息についてみるに、本件和解において別紙弁済一覧表(1)、(2)記載のとおり支払うこととされたが、中野が本件和解金及び同表記載の支払いを一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失い即時に残額を支払わなければならない旨も定められたのであるから、本件和解成立の時点までにおいてその金額が確定したとはいえず、中野による支払いの資金源についても、仮差押不動産が存在するとしても、それが直ちに換金しうるものでない以上、本件和解成立の時点までに同表記載の金額が確実に支払われるべき状態にあるとはいえない。したがって、本件利息に係る収益が確定したのはその支払いがなされた一、四七〇万円については昭和五五年三月二八日、九、三五三万九、二七六円については同五六年三月三一日ということになる。

(三) 本件和解金については、本件和解の条項によれば、その支払いには青森地方裁判所の供託金を取戻して支払う旨の定めがあり、その資金源が明確で支払いは確実であるから、本件和解の時に確定したことになる。』

四 しかし、本件利息が前述のように返還金にたいする法定利息であり、毎年度確実に発生することを考えれば、経過年度に応じて益金に算入されるべき右第一審判決の判示を肯認した原判決には法令違背があるといわねばならない。

第二点 原判決には、採証の法則を誤り、事実を誤認した違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと明かであるので、破棄を免れない。

一 甲第二号証によれば、本件和解条項第八項には、国は「本条項に定めたものの外その余の請求を放棄する」と定められている。

右条項と原審証人鍛治利秀及び尾崎陞の各証言とをあわせ考えれば、国の代理人と上告人代理人との間に国は、本件利息について、改めて課税するような措置はとらないとの合意ができたと解するを相当とする。

原判決には、採証の法則を誤った違法があるといわねばならない(前記準備書面第二項参照)。

二 上告人の課税権濫用の主張について、原判決及び同判決が引用している第一審判決の判示は、上告人が第一審で提出したぼう大な書証(甲第三号証の一、二、三、第四号証の一乃至二一、第五号証の一乃至八、第六号証の一、二、三、第七号証の一乃至三一の二、第八号証の一乃至二〇の一三〇、第九号証の一乃至四、第一〇号証の一乃至第一五号)を十分に検討することなく、極めて簡単に排斥している。

しかし、これらの書類によれば、上告人が中野との訴訟において、どのように苦労して訴訟を遂行したか、その結果、漸く本件和解にこぎつけたかが判るのである。

国及び青森県が本件和解によって、多額の公租公課の回収ができるようになったのも上告人の努力の成果であるとして、和解交渉の中で高く評価され、それが第三者によってなされたならば、報償金ものだといわれたのである。

原判決は、このような配慮をなすことがなかったのである。原判決には採証の法則を誤った違法があり、この法令違背は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

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